厚生労働省の医療広告ガイドラインでは、矯正歯科治療などの自費診療において、治療に伴うリスクや副作用に関する情報提供が求められています。
矯正歯科治療により多くのメリットが得られる一方で、他の医療行為と同様に、矯正治療にもリスクや副作用の可能性があることを理解しておくことが非常に重要です。どのような治療でも、一定のリスクや副作用の可能性はゼロではありません。しかし、これらのリスクや副作用を正しく理解し、適切に管理することで、安全で安心な治療を受けることができます。
ここでは、矯正歯科治療の過程で考えられるデメリットやリスク、副作用について詳しく説明いたします。以下に示すのは、矯正治療に伴う一般的なリスクや副作用であり、必ず生じるわけではないことをご承知ください。
矯正治療中
虫歯や歯肉炎になりやすい
- 歯に金具を装着した状態で食事をすると、金具に食べ物が引っ掛かってしまいます。食後のブラッシングを怠ると虫歯や歯肉炎をおこしやすくなるので注意が必要です。
しかし、ブラッシングをしっかり行っていれば問題は起こりません。虫歯や歯肉炎は治療の精度や期間に影響を及ぼしますので、確実なブラッシングをお願いします。
歯根吸収を起こすことがある
- 歯根吸収(しこんきゅうしゅう)とは、歯の根が吸収されて根の長さが短くなることをいいます。
治療中に必ずしも起こるものではありませんが、まれに矯正治療中に歯の移動により歯根吸収が起こることがあります。
顎関節症が顕在化することがある
- 現代人の多くが顎の関節に何らかの異常を持っているという疫学的調査結果があります。
矯正治療中は歯を積極的に動かすので、場合によってはかみ合わせが一時的に変わり、潜在的にあった顎関節異常が顕在化することがあります。
歯肉退縮やブラックトライアングルが現れることがある
- 特に歯の周りの骨や歯肉が薄い場合は歯肉退縮(しにくたいしゅく)やブラックトライアングルが生じることがあります。ブラックトライアングルとは、歯と歯の間の歯ぐきが下がり、すき間が黒く三角形に見える状態のことです。
知覚過敏を起こすことがある
- 歯の神経が過敏状態になったり、歯根が露出したことにより知覚過敏を経験することがあります。過度なブラッシングによる歯の摩耗や歯周病を経験した歯などは症状が強く発現します。
やさしくブラッシングをするよう心掛けましょう。
歯の失活(しっかつ)を起こすことがある
- 歯を動かしている最中に歯の神経が失活(しっかつ)することがまれにあります。失活とは、歯髄(しずい)が機能を失ってしまうことです。歯の移動による変化に対応しきれなくなった結果により生じることが多いです。過去に歯の打撲やむし歯の治療を経験した歯に起こりやすいです。治療中に歯に外傷を受けた場合も同様です。歯の根の治療を施せば大事に至ることはありません。
口内炎ができることがある
- 矯正装置が粘膜に当たったり、擦れたりすると粘膜が荒れたり、口内炎が生じたりします。
痛みを伴う場合があるので、金具と粘膜の擦過痛を軽減するために粘膜保護材(ワックス)を用意しています。
歯の移動に伴う歯の痛み
- 矯正治療を行うと、歯が動く痛みを感じます。
痛みは装置装着や装置調整後、4〜5時間後から徐々に現れ、2〜3日をピークに徐々に消失します。また、痛みの感受性は人それぞれです。市販の鎮痛剤を服用することも可能です。歯周病とは異なり病的なことではありません。
矯正治療後
後戻りを起こすことがある
- 保定装置を規定通りに使用しないと後戻りが生じます。装置によって動かされた歯は元の位置に戻ろうとします。後戻りが起こる要因は以下の2つです。歯槽骨が新しい口腔環境に適応しきれていない。歯根周囲を囲む靭帯が再配列しきれていない。動かした歯が新しい歯列やかみ合わせに適応するには時間がかかります。個体が新しい環境を受け入れる間は保定装置を装着しなければなりません。
詰め物や被せ物を取り換えることがある
- 矯正治療が終了すると、以前とは異なる歯並びやかみ合わせになります。そのため、治療前に装着していた修復物が矯正治療によって作られた歯列やかみ合わせに合わなくなることがあります。その時は修復物の再製が必要です。金属やセラミックに金具を装着する際に、機械を用いて表面を粗くする必要があります。その結果、金具の撤去後に痕が残る場合があります。研磨を施して痕を極力小さくしますが、気になる場合は修復物の再製が必要です。